病状の進行・服薬の注意点など

病状の進行・服薬の注意点など

症状の進行について

パーキンソン病には、その病気自体の進行を停止したり遅くしたりするというようなはっきり証明された薬剤は今のところありません。残念ながら症状は数年単位でゆっくりと進行します。しかし、病態の進行速度には個人差がかなりあります。

重要なことは、パーキンソン病という診断に誤りがなければ、4-5年で車椅子生活を強いられるような状態に陥ることは絶対にないことです。発症から10年以上たっても登山されている患者さんも当センターではめずらしくありません。

パーキンソン病の治療は、薬による内科的治療が主体となりますが、パーキンソン病に有効な薬は十数種類もあり、今後も海外で広く使われている薬が次々と国内でも使用できる状況にあります。

また近年、別述の脳深部刺激療法(DBS)という脳外科的な手術療法も急速に普及しつつあり、この手術によって症状が劇的によくなることもあります。

この他にも神経内科と他科との連携によって初めて可能となる重要な治療法がいくつかあり、それらの治療法を適宜選択すれば症状をうまくコントロールすることが可能です。

パーキンソン病は、体が固くなるとか、動きにくいといった「運動障害」だけではなく、うつ状態になりやすいなどの「精神症状」や便秘がひどい、立ちくらみが生じやすいなどの「自律神経症状」なども生じてきます。

これらの問題が生じてきた際には、それぞれに適宜対応していくことが必要ですので、主治医に早めに相談することが大事です。短時間に多くの患者さんの診察をしなければならない日本の現状では、ここで学んだようなことを患者さんの方から医者に問いかけることも必要です。

さて、パーキンソン病は新聞などのメディアでしばしば「難病」としてとりあげられます。しかし、原因 が不明という意味ではまだパーキンソン病は「難病」かもしれませんが、治療面で言えば、たくさんの選択肢があり、決して「難病」とは言えない時代になって います。他の病気についても言えることではありますが、内にこもることなく積極的に前向きに生きていくことが、精神面、肉体面で症状の悪化を防ぐことがで きます。

以上のことを理解していただいた上で、長期治療上で出現してくる主な諸問題について、それに対する対処法を簡単に述べます。

Lドパの薬効減弱への対処法

服薬開始当初は少量でもよく効いていたLドパも、徐々にその効果が減弱してきます。その理由は、病気そのものが進行したことだけでなく、Lドパの体内吸収パターンも変化してくることによっても起こります。

Lドパは胃酸で溶けて十二指腸で吸収されます。加齢に伴って胃酸分泌が低下した結果、Lドパの吸収が 低下してくる場合があります。このような場合は、レモン水やビタミンCなどと一緒に服用すると吸収が良くなることがあります。牛乳や乳製品を摂取した後で は、胃酸が出る胃粘膜がタンパク質の膜で覆われ、その食事中のタンパク質が粘膜から脳に入るLドパをブロックしたりするために、Lドパの効果が出にくくな りまので、牛乳や乳製品は夕食後の服薬後に摂取するようにした方がよいでしょう。

また胃酸分泌を抑制したり胃酸を中和したりするような「胃薬」を飲んでいないか見直すことも大事で す。胃薬は惰性的に服用しているだけのこともありますので、その必要性について見直し、一度止めてみるのも一案です。もし、抗パーキンソン病薬による「ム カムカ」に対して服用しているのであれば、これらの胃薬はあまり効果がないので、代わりにドンペリドン(ナウゼリン®)を服用します。Lドパやドパミン受 容体刺激薬を服用する約30分前に服用することが、その効果を確実にする服用方法です。ナウゼリン®はドパミン阻害剤ですが、脳内には入りにくいのでドパ ミンが不足しているパーキンソン病でも、その症状を悪化させることがなく安全です。一方、メトクロプライド(プリンペラン®)は脳内でもドパミンを阻害す るので、パーキンソン病症状を悪化させ危険です。もしプリンペラン®を服用しているようであればナウゼリン®に変更します。

Lドパ1錠を服用してもその効果が不十分なときには、1回に1.5錠-2錠服用しなければならないこともあります。

現在使用されているLドパ製剤は、Lドパが脳内に入る前にドパミンに変換されるのを防ぐ脱炭酸酵素阻 害剤との合剤が主流ですが、ネオドパゾール®,イーシードパール®、マドパー®の方が脱炭酸酵素阻害剤の配分が多いため、ネオドパストン®、メネシット® より効果が強いと言われています。必要に応じてLドパ製剤の種類の変更も考慮します。

セレギリン(エフピー®)は、モノアミン酸化酵素阻害剤(MAO阻害剤)といい、脳内でドパミンが分 解されるのを阻害することによってLドパの効果を高めます。何らかの原因にてLドパの本来の効果が出にくい場合、セレギリン(エフピー®)を追加するとよ い場合があります。ただし、後述のジスキネジアが悪化することもあり注意が必要です。

便秘の改善や前日によく眠れたりすると翌日の動きがよい、と多くの患者さんは言います。必要に応じて緩下剤の服用で便通をよくし、時には睡眠導入薬や抗不安薬を服用し熟睡することも大事です。

Lドパ薬効時間の短縮(ウエアリング・オフ現象)の対処法

前述したように、服薬開始初期には1日に1-2回の服用回数でも一日中よく効いていたLドパも、徐々にその 効果持続時間が減弱してきます。朝、昼、夜と1日3回服薬してもLドパの効果が切れる時間が出てきた場合をウエアリング・オフ現象といいます。(Lドパが 効いている時間帯をオン期、Lドパ効果の消失している時間帯のことをオフ期といいます。)

ウエアリング・オフ現象が出てきた場合は、起床時、午後3時頃、就寝前などにもLドパの追加服用が必 要となってきます。追加する際にも一日のLドパ使用総量はなるべく最小限にし、Lドパを少量に分けて頻回投与にしてみます。例えば、起床時には半錠服用 し、朝食後から1錠を服用するなどの工夫をします。

早朝のオフ期に足がこむら返りのようにつって痛む場合は、就寝前に薬効時間が長いドパミン受容体刺激薬を少量飲むとよいでしょう。

オフ期の運動機能を改善するためには、ドパミン受容体刺激薬(ドパミン・アゴニスト)を追加・増量することも効果的です。

ドパミン受容体刺激薬は何種類もあり、貼付薬などの新しい薬も使用可能になってきています。ドパミン受容体刺激薬にはそれぞれ特徴があり、それらを症状に合わせて上手く使い分けることが必要となります。

COMT阻害剤(エンタカポン:コムタン®、 Lドパとの合剤:スタレボ®)もウエアリング・オフ現象の軽減に効果的な薬です。また日本初の新薬、アデノシン受容体拮抗薬(ノウリアスト®)も選択肢の1つです。

以上のように、さまざまな薬物療法を工夫しても上手くいかない場合は、後述の外科的療法も治療オプションとして一考の価値があります。

Lドパ誘発性不随意運動(ジスキネジア)の対処法

Lドパを服用してその効果が出現してきたときに、手足や体が勝手にくねくねと動くような不随意運動がみられることがあり、これをジスキネジアとよびます。

ジスキネジアは、病初期からLドパを必要以上に大量に服用し続けると出現しやすくなることや、一度出 現したジスキネジアは、その後Lドパの投与量をいろいろと加減してもコントロールが非常に困難であることなどが知られています。ジスキネジアが出現するよ うな状態をつくりださないためには、病初期には可能な限りドパミン受容体刺激薬などで治療を開始し、いたずらに必要以上のL-ドパを大量に投与しないこと が大事です。

特に若く発症した若年・中高年の患者さんでは、Lドパの吸収が高齢者に比べて良いことなどが理由で、ジスキネジアが出現しやすいことが知られていますので、特に慎重にLドパを増量しならなければなりません。

一方、高齢者の場合は、ドパミン受容体刺激薬の副作用が出やすいためにLドパ主体で治療することの方が適している場合が多く、また、ジスキネジアは高齢者では出にくいことも重要です。

さて、ジスキネジアが出現してしまった場合ですが、まずはドパミン受容体作動薬を増量しながらL-ドパ投与量を減らしてみます。MAO阻害薬(エフピー®)が投与されている場合には、それも減量・中止します。

アマンタジン(シンメトレル®)をある程度大量に追加すると、抗パーキンソン病効果とともにジスキネジアが軽減することも期待できます。しかし副作用として幻覚の出現に気をつけます。

ジスキネジアに対してドパミン受容体遮断薬(ハロペリドール:セレネース® 、チアプリド:グラマリール® など)を用いることは、結局パーキンソン症状を悪化させることにつながるので、薦められる対処法ではありません。

以上のような薬物の調整でもコントロールが困難で、かつ体力を消耗するような激しいジスキネジアには、別述の外科的治療も考慮する必要があります。

薬剤性「幻視」の対処法

抗パーキンソン病薬の服用で、ヒト、小動物、虫など実際に存在しないものが見えること(幻視)があります。

患者さんご本人よりは、周りの家族の方が心配して大騒ぎになる傾向が強いように思いますが、特に高齢 の方や脳萎縮の強い方では幻視は出やすいので、基本的には幻視の内容がヒトや動物に“襲われる“などの恐怖を感じるものでなければ放置して構いません。ご 本人に見えているものを周囲の家族が否定しても仕方ないので、温かく見守ってあげることも必要です。

幻視を軽減する目的で抗パーキンソン病薬を減量したり中止したりする場合は、最近追加した薬剤を減量 /中止するのが原則ですが、多種類服用していてどの薬を減量/中止してよいのか迷う場合は、 抗コリン剤、アマンタジン(シンメトレル® ) 、ドパミン受容体刺激薬の順に減量・中止し、場合によってはLドパだけを服用するようにします。

抗パーキンソン病薬を減量するとあまりにも体の動きが悪くなって困るときには、ある程度の抗パーキン ソン病薬を服用したまま、セロクエル®、ジプレキサ®、ルーラン®などの薬を少量試してみます。これらの薬は、従来の抗精神病薬(ハロペリドール:セレ ネース® 、チアプリド:グラマリール®)などとは異なり、少量ではパーキンソン病症状を悪化させにくいといわれていますので、比較的使用しやすい薬といえます。

脱水などの全身状態の悪化でも幻視が出やすい状態となりますので、薬の量は今までと同じなのに急激に 幻視が出現した場合は、早めに医療機関を受診し治療を受けた方がいいでしょう。全身状態の管理は必ずしもパーキンソン病の専門医である必要はなく、別にか かりつけの内科医(ホームドクター)をつくっておくのもよい方法です。