パーキンソン病の疑問 治る?寿命に影響?予防できる?

パーキンソン病は、「難病」というイメージが強いかもしれません。確かに、現時点で、根本的な原因を解決することはできませんが、症状をおさえる治療は可能です。予防の可能性や寿命への影響も含めて、医師監修記事で、わかりやすく解説します。なお、文中に登場する「パーキンソン症候群」というのは、「パーキンソン病のような症状が出る病気の総称」であり、パーキンソン病とは、別の病気である点に、ご注意ください。

パーキンソン病は治る?治らない?
今のところ、パーキンソン病に対する全ての治療は、症状の種類や程度にあわせて適切な内服薬の治療または手術を選択していくという方法、つまり「対症療法」がとられています。治療法の進歩により、運動症状や非運動症状のコントロール、そして生命に関する予後も飛躍的に向上してきています。一般の方と、ほとんど同じように寿命を全うできるという意味では、治る病気といえるかもしれません。しかし、原因療法といわれる、パーキンソン病の発症を抑えたり、進行を止めるといった治療は行われていないのが現状です。

一方、遺伝が関係する家族性パーキンソン病と脳の細胞内でおこる異常の関係を調べる研究結果から、パーキンソン病の主体である90%を占める孤発性パーキンソン病の原因や発症メカニズムの解明も、あと一歩のところまで来ているようです。欧米では、パーキンソン病の発症および進行に最も重要とされる「αシヌクレイン」というタンパク質をターゲットとした免疫療法や核酸(DNAとRNA)療法、あるいはαシヌクレインをい除去療法などのパーキンソン病の患者さんを対象とした臨床研究(人に治療が効果的か確かめる研究)が進み、パーキンソン病の進行を抑制する療法の実用化に向かっています。本当の意味で、“治る”病気になる日も近いかもしれません。

パーキンソン病は治療で進行速度を遅くできる?
パーキンソン病は進行性(病状が進んでいくタイプ)の病気で、今のところ、進行を完全に止める根本的な治療法はありません。患者さんによって進行の速さはそれぞれですが、一般的に、主な症状が振戦である「振戦型パーキンソン」の患者さんでは進行は遅く、「動作緩慢が主な症状の「無動/固縮型パーキンソン」だと進行が速いといわれています。

現在、使われている有効なパーキンソン病治療薬が登場する以前は、発症した後、平均およそ10年で、ヤール重症度分類は「ステージIV」、つまり、日常生活に介助が必要となり、平均およそ15年で、ベッド上での生活を強いられる「ステージV」となることが多かったようです。現在では、発症から約10年を経過しても、70%の患者さんのADL(Activities of Daily Living 日常生活の動作のこと)は自立していますので、治療によってうまくコントロールしていけば、進行を遅らせることは十分可能です。10年以上経過すると、介助が必要になることもありますが、パーキンソン病の症状や進行の度合いは個人差が大きく、「難病」ということにとらわれすぎずに、病気と上手につき合っていくことが大切だと考えられます。

パーキンソン病患者の予後 寿命、診断後の余命は?
パーキンソン病は進行性の難病であり、最後には必ず寝たきりになると思っている方も多いかもしれませんが、骨折を起こしたり、重症の肺炎になって長期に寝込むようなことがなければ、パーキンソン病だけで寝たきりになることはまずありません。最近、20から30年の間にも、多くの治療薬が開発され、運動機能の治療見通しは確実に改善しているといわれています。ただ、「振戦のないタイプ(無動/固縮型パーキンソン)」、「発症年齢が高い場合」、「高年齢」、「発症から1年以内に認知症を合併する場合」あは、運動症状および全般的な障害度の点で、予後が悪い傾向があるとされています。生命に関わるような影響は、むしろ、寝たきりのきっかけとなるような合併症によって左右されます。とくに嚥下障害(飲み込むことが難しい状況)は、誤嚥性肺炎、窒息、栄養障害の原因にもなり、予後を決める重要な因子とされていて、十分な対策が必要となります。

一方、生命に関する予後も決して悪くはありません。パーキンソン病では高齢の患者さんが多いため、直接の死因は「肺炎」「悪性新生物(癌)」「心疾患(心臓の病気)」の順になっています。一般の方の肺炎で亡くなる方が多くなっていますが、パーキンソン病の方の寿命は、ほとんど一般の方々の寿命と変わらないところまできています。現在、パーキンソン病と診断された場合の平均余命も、一般の方より2から3年短いだけとされています。

 

パーキンソン病の疑問 治る?寿命に影響?予防できる?
パーキンソン病は、「難病」というイメージが強いかもしれません。確かに、現時点で、根本的な原因を解決することはできませんが、症状をおさえる治療は可能です。予防の可能性や寿命への影響も含めて、医師監修記事で、わかりやすく解説します。なお、文中に登場する「パーキンソン症候群」というのは、「パーキンソン病のような症状が出る病気の総称」であり、パーキンソン病とは、別の病気である点に、ご注意ください。

今のところ、パーキンソン病に対する全ての治療は、症状の種類や程度にあわせて適切な内服薬の治療または手術を選択していくという方法、つまり「対症療法」がとられています。治療法の進歩により、運動症状や非運動症状のコントロール、そして生命に関する予後も飛躍的に向上してきています。一般の方と、ほとんど同じように寿命を全うできるという意味では、治る病気といえるかもしれません。しかし、原因療法といわれる、パーキンソン病の発症を抑えたり、進行を止めるといった治療は行われていないのが現状です。

一方、遺伝が関係する家族性パーキンソン病と脳の細胞内でおこる異常の関係を調べる研究結果から、パーキンソン病の主体である90%を占める孤発性パーキンソン病の原因や発症メカニズムの解明も、あと一歩のところまで来ているようです。欧米では、パーキンソン病の発症および進行に最も重要とされる「αシヌクレイン」というタンパク質をターゲットとした免疫療法や核酸(DNAとRNA)療法、あるいはαシヌクレインをい除去療法などのパーキンソン病の患者さんを対象とした臨床研究(人に治療が効果的か確かめる研究)が進み、パーキンソン病の進行を抑制する療法の実用化に向かっています。本当の意味で、“治る”病気になる日も近いかもしれません。
パーキンソン病は治療で進行速度を遅くできる?

パーキンソン病は進行性(病状が進んでいくタイプ)の病気で、今のところ、進行を完全に止める根本的な治療法はありません。患者さんによって進行の速さはそれぞれですが、一般的に、主な症状が振戦である「振戦型パーキンソン」の患者さんでは進行は遅く、「動作緩慢が主な症状の「無動/固縮型パーキンソン」だと進行が速いといわれています。

現在、使われている有効なパーキンソン病治療薬が登場する以前は、発症した後、平均およそ10年で、ヤール重症度分類は「ステージIV」、つまり、日常生活に介助が必要となり、平均およそ15年で、ベッド上での生活を強いられる「ステージV」となることが多かったようです。現在では、発症から約10年を経過しても、70%の患者さんのADL(Activities of Daily Living 日常生活の動作のこと)は自立していますので、治療によってうまくコントロールしていけば、進行を遅らせることは十分可能です。10年以上経過すると、介助が必要になることもありますが、パーキンソン病の症状や進行の度合いは個人差が大きく、「難病」ということにとらわれすぎずに、病気と上手につき合っていくことが大切だと考えられます。

パーキンソン病患者の予後 寿命、診断後の余命は?
パーキンソン病は進行性の難病であり、最後には必ず寝たきりになると思っている方も多いかもしれませんが、骨折を起こしたり、重症の肺炎になって長期に寝込むようなことがなければ、パーキンソン病だけで寝たきりになることはまずありません。最近、20から30年の間にも、多くの治療薬が開発され、運動機能の治療見通しは確実に改善しているといわれています。ただ、「振戦のないタイプ(無動/固縮型パーキンソン)」、「発症年齢が高い場合」、「高年齢」、「発症から1年以内に認知症を合併する場合」あは、運動症状および全般的な障害度の点で、予後が悪い傾向があるとされています。生命に関わるような影響は、むしろ、寝たきりのきっかけとなるような合併症によって左右されます。とくに嚥下障害(飲み込むことが難しい状況)は、誤嚥性肺炎、窒息、栄養障害の原因にもなり、予後を決める重要な因子とされていて、十分な対策が必要となります。

一方、生命に関する予後も決して悪くはありません。パーキンソン病では高齢の患者さんが多いため、直接の死因は「肺炎」「悪性新生物(癌)」「心疾患(心臓の病気)」の順になっています。一般の方の肺炎で亡くなる方が多くなっていますが、パーキンソン病の方の寿命は、ほとんど一般の方々の寿命と変わらないところまできています。現在、パーキンソン病と診断された場合の平均余命も、一般の方より2から3年短いだけとされています。

パーキンソン病は予防できる?

脳のあらゆる神経細胞は、老化により減少していきますが、パーキンソン病におこる脳の変性の中心である「黒質」といいう部分における「ドーパミン神経細胞」という細胞は、正常脳でも最も早く減少していくことが知られています。

黒質から「線条体」という部分へ神経伝達するドーパミンが20%以下に減少すると、パーキンソン病が発症するとされますが、正常の老化をたどっても、ドーパミンの自然の減少速度から推定すると、約120歳頃にはパーキンソン病になるという仮定もあります。したがって、何らかの原因で老化に伴う神経細胞の死ぬスピードが加速されたものが、パーキンソン病と考えることもできます。パーキンソン病の予防は、人の老化による脳細胞の死を予防できるかということとも深く関わっています。

以下のような方法が、パーキンソン病の予防につながる可能性があります。

(1)「神経成長因子」というタンパク質は、脳の神経の維持、生存に不可欠なものです。脳内で、このタンパク質を増やすことにより、パーキンソン病アルツハイマー病などの予防が期待されています。ただ、外から与えることができないため、脳内での合成を増やす物質を探すがめの研究が進んでいます。現時点で、「ヤマブシタケ」というキノコ類の成分に、神経成長因子を作用があることが、動物実験では確かめられています。人間でも効果があるかどうかを、確かめる研究が期待されます。

(2)緑茶の主要な「ポリフェノール」の1つにも、実験では予防効果がみとめられています。

(3)コーヒー(カフェイン)は、パーキンソン病に対して有効であることは以前から知られています。作用としては、ドーパミン神経細胞の減少を防ぐだけでなく、ドーパミン神経系の機能や構造にも良い影響を与えるとされています。

(4)喫煙は、主に疫学研究(多くの人間を対象とした医学研究)を中心に、パーキンソン病に対して予防効果があることが報告されてきました。タバコに含まれるニコチンの作用であることが、動物では確かめられています。ただ、喫煙はパーキンソン病の患者さんの認知症の発生を増加させることも報告されています。
パーキンソン病の患者数 世界と日本

わが国をはじめ地球規模で人口の高齢化が進んでいるために、人口構造の変化に伴って、パーキンソン病の患者数にも変化が見られています。2014年に発表されたデータによると、全世界では、人口10万人当たりの患者数は、全体で315人に対して、50歳代で107人、60歳代では428人、70 歳代で1,087人、80歳以上では1,903 人となっていて、年齢を重ねるごとに患者数は増加していきます。また、「アジア」、「アフリカ」、「南米」、「欧州・北米・豪州」の4グループに分けて、地理的関係と患者数を検討した結果では、70から79歳の年齢層において、「アジア」では人口10万人当たり646人であったのに対して、「欧州・北米・豪州」では1,601人と明らかに高く、何らかの遺伝的または環境的な要因が関与していると考えられています。

日本では鳥取県西伯郡大山町で行われている疫学調査の2003年時点でのデータによれば、人口10 万人当たりの患者数は全体が306.6人、男性183.4人、女性419.4人、65 歳以上の年齢では1,095.5人となっています。わが国では女性の患者さんが、1.5倍程度多いことが示されていますが、「男性が多い」とする欧米からの報告とは傾向が異なっています。

世界や大山町の全体の患者数は、「粗有病率(調整していないもの)」、つまり実際に発症した患者数を単純に数えていて、年齢や性別による調整をしていません。年齢や性別により調整した人口10万人当たりの「有病率」は、欧米は150から200人、日本では100から150人とされています。欧米を中心とする世界的な人口の高齢化により、世界的に患者数の増加があり、わが国においては高齢女性人口の増加により、将来さらに患者数の激増が起こるのではないかと予想されています。

パーキンソン病の治療可能性や予防可能性などについてご紹介しました。「家族がパーキンソン病かもしれない」と不安に感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。