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手術も100%!順天堂大病院「院長職も100%頑張る」理由

天皇の執刀医Dr.天野篤の「危ぶめば道はなし」【18】

人生何が起こるかわからない

この4月から順天堂大学附属順天堂医院の院長に就任しました。院長になったからといって、もちろん外科医をやめるわけではなく、院長職も100%、心臓外科手術も100%頑張りたいと考えています。4月は出席しなければならない会議や式典も多く、以前よりは少し手術を減らしている状態ですが、ゴールデンウィーク明けくらいには、徐々にほぼ元通りのペースで手術をする予定です。
順天堂大学病院副院長・心臓血管外科教授 天野 篤

病院としては、職員が働き甲斐を持てる職場環境を整え、患者さんの満足度も高められればと考えています。まずは患者さんの安心・安全を確保することですが、全体的なホスピタリティを高めて病院を居心地のいい場所にするとともに、アメニティも整えていければと思います。

心臓外科医になったときには、自分が、大学教授になったり、天皇陛下の手術の執刀医に選ばれたりするとは思っていませんでした。順天堂大の教授になったときにも、院長って大変だなあとは思うだけで、まさか自分が病院長の立場を担うとは考えてもみなかったですね。とにかく心臓病の患者さんを一人でも多く助けたい一心で走り続けてきましたが、人生何が起こるか分からないものです。ましてや、名誉職としての院長ではなく、医療安全、患者保護が重要視され、国際認証JCI(Joint Commission International)を取得し、大学病院も成長を求められる時期であるだけに気を引き締めています。

当院は厚生労働省の医療推進や規制を直接的に受ける特定機能病院です。高度な医療を提供する特定機能病院といえども基本は保険診療であって、保険診療をいかにうまく活用して病院の経営をして、患者さんに最適な医療を提供し、前向きな設備投資をするかは今までお世話になった国民皆保険による医療制度に対する恩返しです。一人前の心臓外科医になるために、両親、恩師などすでに他界した人も含めて多くの方々に支えられてきました。院長職は、今まで支えてくださった人への恩返しであり、今までとは違った社会貢献、患者貢献と位置付けています。

手術を続けるのは患者さんのため、後進の教育のため

ビジネスの世界にいる皆さんも、管理職になって仕事が増えたときに仕事の配分をどうするか考えるのではないでしょうか。私は、かなり早い段階から外科医としての将来像を考え、手術にウエイトを置くようにしました。外来、入院患者の回診、医学部学生の卒前・卒後教育、研究、手術のすべてを全力投球でこなすのは無理があります。そこで、1日の時間の多くを手術のために使い、他施設よりも良い結果を出すことでエビデンスを構築して、訪れる患者さんに満足していただくとともに教育と研究につなげて、外来や回診、論文作成などは自分の医局の医師たちに任せてきました。研究もそれをライフワークとして選択した専門医師に任せ、医局員の管理は自分がして教授職をそれなりに全うする道筋をつけてきたのです。

すべてを一人でこなそうとしてどれも中途半端になってしまうのは嫌でしたし、そうしてきたからこそ年間500例前後の手術を執刀し実績を積んでこられたのだと思います。もちろん、手術の前に行う患者さんへの重要な説明は自分自身で納得いただくまでしますし、手術前後で気になることがあったら、直接入院中の患者さんのところへ行くようにしています。

手術に軸を置いてきたので、それに院長の仕事がプラスされたとしてもそんなに大変ではありません。外科医として自分を追い込んで、難しい手術をして、手術を良い結果で早く終わらせるということをしてきて余力を作ったら次の仕事、さらに余力を作ったら別の仕事を引き受けてきたら、たまたまそこに院長の職務が加わった感じです。これからも、他の病院では難しいといわれた患者さんの手術も可能な限り引き受けます。

ある程度これまでの通りの手術件数を維持するということは、自分が外科医であることを証明するためであると共に、患者さんのため、そして後進の教育のためです。実際に一緒に手術室に入って執刀し、助手を務めたりすることで外科医は育ちます。最近では医学部の学生や院内の研修医にとどまらず、患者さんの同意を得て、医師を目指す高校生や他院で良い手本が見つからずに成長で足踏みしているような医師たちにも手術室内での実地教育を積極的に行っています。どちらかというとアウトローで学会の庇護でしか存在感を示せない他施設の教授たちのように、机上の卒後教育を展開することには辟易していたので、外科医でいる限りは、自分の生き様と実際の手術を見せて後進の指導に力を入れたいと考えています。

心房細動を起こしやすい甲状腺ホルモン過剰

管理職となった今でも1日のうち病院にいる時間は以前と変わりませんが、前よりもさらにすき間なく無駄なく時間を使わなければいけないという自覚はあります。最近は、特に地方から私の手術を受けに来る患者さんも多いこともあり、前よりも患者さんの対応を早くするようにしているくらいです。来た方から手術を計画しないとどんどん後回しになってしまいます。患者さんに迷惑をかけてしまっては元も子もありません。以前から何度か書いているように私の手術のモットーは「早い、安い、うまい」で、実行あるのみです。

実は先日、私自身が「心房細動」になりました。心臓は、左右の心室と心房の4つの部屋に分かれています。心房細動は、心室に血液を送り出す心房がけいれんしたような状態になって、心臓の機能が低下する病気です。私の場合、なんとなく左の胸のあたりに空洞ができたような感じになって、脈が非常に速くなりました。

心房細動は、致死的な不整脈である心室細動ほどすぐに命に関わることは少ないものの、脳梗塞を引き起こすことがある病気です。私には働き盛りの時期に甲状腺機能亢進症に傾く持病があり、甲状腺ホルモンを抑える薬を服用していますが、甲状腺ホルモンが過剰になると心房細動を起こしやすくなるので、8年前にも同じような不整脈を起こしたことがありました。ただ、今回は1日程度続き以前より発作が長かったので、このまま脳梗塞を引き起こしたらどうしようかと不安な気持ちで一夜を過ごしました。幸い大事には至らずに済みましたが、改めて患者さんはいつもこのような不安を抱えているのだと実感し、少しでも早く症状を取り除く治療に移すことが最も大切なことだと思いました。

心臓疾患を指摘されて日常生活に制限を受けたり、突然死の危険性を宣告されて順天堂医院を訪れる患者さんたちの不安を早く解消するためにも、手術が必要な患者さんには、お待たせしても患者さんの都合や仕事の整理をつける期間くらいにして、「早い、安い、うまい」手術を施したいと思います。患者さんを守り、期待通りに治して、ご満足いただく医療を完成させたいと心に期しています。同時に、自分のスケジュール管理と健康管理も今まで以上にしっかりしなければと反省し、きちんと対応していきます。
天野 篤(あまの・あつし)
順天堂大学病院副院長・心臓血管外科教授
1955年埼玉県生まれ。83年日本大学医学部卒業。新東京病院心臓血管外科部長、昭和大学横浜市北部病院循環器センター長・教授などを経て、2002年より現職。冠動脈オフポンプ・バイパス手術の第一人者であり、12年2月、天皇陛下の心臓手術を執刀。著書に『最新よくわかる心臓病』(誠文堂新光社)、『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)、『熱く生きる 赤本 覚悟を持て編』『熱く生きる 青本 道を究めろ編』(セブン&アイ出版)など。
 PRESIDENT Online スペシャ
著者 順天堂大学病院長・心臓血管外科教授天野篤