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第17回 摂食嚥下障害の臨床Q&A

第17回 摂食嚥下障害の臨床Q&A

「骨折で入院したパーキンソン病患者さん」

 

監修・執筆 

野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

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執筆 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

大腿骨頸部骨折で入院中の75歳男性ですが、手術後の経口摂取が進みません。パーキンソン病のため時々はムセていたそうですが、入院前は普通食を食 べていたとのことです。今は中心静脈栄養ですが、このままでは胃瘻も考えなくてはなりません。入院生活による廃用が進んだのでしょうか?

高齢者では入院や手術をきっかけとして、身体や認知機能が低下してしまうことがあります。入院時の「安静」は高齢者にとって弊害が多く、若年成人で は問題にならない程度の安静であっても、容易に廃用を引き起こします。では、入院中の機能低下をすべて「廃用」で括っていいかというと…。

今回は「廃用以外」の機能低下の一例を取り上げ、疾患・病態把握の重要性を再認識してもらおうと思います。


本当に廃用?

「廃用」は高齢者だけでなく、すべての患者さんにとって避けられるべき状態です。使わない機能が衰えることを「廃用」といい、とくに入院患者さんでよく見られる症状です。廃用に対しては、訓練(狭い意味でのリハビリテーション)が有効であり、再び機能を使うことで廃用からの回復が期待できます。

このように「廃用」は重要なキーワードですので、臨床ではよく機能低下した患者さんに対して「廃用による歩行障害」「廃用による嚥下障害」といった会話がなされます。「廃用」とつけると問題が解決したような気になってしまいますが…そうすると廃用以外の原因を見落とすことになります。本当に廃用かどうか、他に原因がないかを十分に考えましょう。

パーキンソン病とは

今回の患者さんはパーキンソン病でした。パーキンソン病は脳内のドーパミンが枯渇する疾患であり、ドーパミンがないと活気がなくなり振戦、寡動、固 縮、姿勢反射保持障害といった運動症状が出ます。嚥下障害も出現します。その治療は投薬でドーパミンを補うことが基本です。ただしドーパミンを直接投与し ても脳まで届かないので、その前駆体であるレボドパを投与します。加えて、レボドパは脳に届くまでに体内で分解されやすいので、安定させる薬剤も一緒に投 与(レボドパ・DCI配合剤)します(図1)。そこでポイントとなるのは、レボドパ・DCI配合剤は経口剤しかないというところです。
レボドパ投与経路のイメージ

術後の投薬に注意!

入院後から活気がなくなって、ムセが増えたということは…。術後は経口摂取がままならないためにレボドパ合剤を飲めていない可能性があります。レボ ドパ・DCI配合剤を飲めないと嚥下機能も悪くなり、嚥下機能が悪いとレボドパ・DCI配合剤も飲めず、という悪循環に陥っている可能性が考えられます (図2)。点滴のレボドパもありますが合剤ではないので中枢に届く前に分解されてしまい、悪性症候群(注)の予防にはある程度効果しますが、経口でのレボ ドパ・DCI配合剤ほどの効果は期待できません。

この場合はNGチューブを使ってでも、入院前の投薬内容を投与することが必要です。ただしレボドパ・DCI配合剤はアルカリ性の薬と混ざると効果がなくなりますので、酸化マグネシウム(瀉下薬)などの一緒に投与するときは時間を開けて投与しましょう。また、休薬期間が長い場合は、投与直後にレボドパの作用が強く出ることもあるので注意が必要です。
レボドパが服用できないときの悪循環

訓練よりも投薬!

適切にレボドパが投与できれば、積極的な訓練をしなくても経口摂取ができるようになります(食べられていない間に少しは廃用を生じている可能性もあ りますが…数週間であれば臨床上問題となることはありません)。どうしても嚥下障害があると廃用や筋力低下を疑い「嚥下訓練」という発想になりますが、そ の前に原因をしっかりと考えましょう。とくにパーキンソン病の嚥下機能は、訓練よりも投薬によるコントロールの方が重要です。

今回の症例は、解説を聞くと「なぁんだそんなことか」と思われたかもしれませんが、意外と多いパターンです。神経内科の先生と十分コンサルテーショ ンして周術期の管理が行なわれれば今回のようなことは起きませんが、どうしてもパーキンソン病の前に「骨折患者さん」というのが頭にあると忘れがちになる のが投薬です。実際に術後に重度の嚥下障害になったために胃瘻になり、胃瘻からレボドパ合剤を投与するようになったら、嚥下障害が治った(胃瘻も不要に なった)という患者さんもおられます。

今回はパーキンソン病を取り上げましたが、それ以外にも周術期に用いた薬剤や休止した薬剤で、嚥下機能が一時的に低下する場合があります。薬を処方するの はドクターですが「投薬はすべてドクター任せ」ではダメです。異変に気づけるのは日常のケアにあたっている看護師さんです。ぜひ看護師さんも嚥下からみた 投薬を考えていきましょう。


パーキンソン病の周術期の投薬内容の詳細は専門医(神経内科医)の先生としっかりとコンサルテーションして行なうようにしてください.


注 悪性症候群:抗パーキンソン病薬を急激に減量・中止することで生じる症状。発熱、発汗、振戦、頻脈、意識障害などを呈し、適切な処置をしなければ死にいたることもある。


引用・参考書籍
認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション