大量飲酒は「脂肪肝」にまっしぐら

もはや国民病! 今や日本人の3人に1人が脂肪肝という時代に

ビジネスパーソンの多くが気にする「脂肪肝」。健康診断の結果で真っ先にそこを見ている人も少なくないだろう。「脂肪肝」というと、「カロリーの摂り過ぎによる肥満からの疾患」と思う人も多いだろうが、実はアルコールそのものが脂肪肝の原因になることもあるという。そこで今回は、お酒と脂肪肝の関係についてまとめた。

 左党の多くが気にしている「脂肪肝」。会社の健康診断の後は、多くの人が肝臓のデータの数値を気にかけ、正常値内に入っていると、ホッと胸をなでおろすのではないだろうか。

 脂肪肝というと「脂肪や糖の摂り過ぎによる肥満からの疾患」というイメージが強いように思う。「アルコールはエンプティ(空)カロリーだから太らない」という説が影響しているからか、アルコールはあまり関係ない、もしくは関係しているとしても影響は大したことはないのではないかと思いがちだが(筆者はずっとそう信じてきた)、実は多いに関係がある、つまり脂肪肝の一因はアルコールそのものにあるという。

 筆者の周辺の酒飲みを見渡すと、痩せ型よりもメタボの方のほうが遥かに多い。また見た目は痩せていても、中性脂肪の数値が高かったり、脂肪肝気味、もしくは脂肪肝と診断された方も少なくない。筆者自身も体重は平均体重なのだが、恥ずかしながら中性脂肪はやや高め。今のところメタボとは診断されていないが、「隠れ肥満」であることは間違いない。野菜中心のおつまみにするなど、食生活には十分に配慮しているつもりなのだが、何故「隠れ肥満」になってしまうのだろう? やっぱりお酒の影響が大きいのか。

 多くの左党の方と同様、筆者にとって「酒は命」。今後の人生もお酒とともに歩んでいきたいと切に願っている。だが、このままいくと、脂肪肝になってしまうのではないかと筆者は気が気ではない。そこでアルコールと脂肪肝の関係について、自治医科大学附属さいたま医療センター 消化器科の浅部伸一先生にお話をうかがった。

日本人の3人に1人が脂肪肝!?
 「今や日本人の3人に1人が脂肪肝に罹患していると言われています。健康診断を受けた日本人成人の32%が脂肪肝だったという報告もあります。さらに、BMI(ボディー・マス・インデックス)が25~28の軽い肥満の約58%が脂肪肝を保有していたという報告もあります」(浅部先生)

 欧米人と比較しても、日本人の脂肪肝罹患率はかなり高いというデータもある。食事の欧米化によって、日本に蔓延し始めた脂肪肝。そもそも脂肪肝とはどういう状態を指すのだろうか?

 「脂肪肝とは肝臓(肝細胞)に脂肪(特に中性脂肪)が蓄積した状態のこと。わかりやすく言えば、“フォアグラ状態の肝臓”です。脂肪肝になるメカニズムは実にシンプルで、肝臓から出ていく、「使う脂肪」よりも、肝臓が取りこむ、「作る脂肪」が多いから。つまり、使われなかった脂肪が“貯金”として肝臓に蓄積することにより起こります」(浅部先生)


 お金の貯金ならありがたいが、“脂肪の貯金”は迷惑な限りだ。だが、実際に脂肪肝と診断された左党のほとんどが危機感を抱いてないからか、正直「放置しておいても大丈夫なのでは?」と安易に考えてしまいがちである。だがそれは大きな間違いのようだ。

 「脂肪肝を甘くみてはいけません。脂肪肝を放置して、生活習慣を改めないと、炎症を起こしたり、線維化(*1)が進んで肝臓が硬くなるなどして、果ては肝硬変、肝がんになる可能性があります。肝臓は再生力が高いため、進行はゆっくりです。そのため、あるとき気付いたら、悪化していたということも少なくありません」(浅部先生)

アルコールが脂肪肝の直接の原因に

 どうやら、脂肪肝を甘くみてはいけないようだ。浅部先生によると「脂肪肝の原因は主にカロリー過多の食事や慢性的な運動不足のほか、アルコールそのものが原因になる」という。

 「アルコールは太らない」どころか、脂肪肝を誘発する直接の原因だったとは! 左党にとっては「えーっ!」と叫びたくなるような話である(筆者だって叫びたい)。

 「脂肪肝には大量飲酒が原因のアルコール性脂肪肝と、肥満、脂質異常、糖尿病が関与する非アルコール性脂肪肝の2タイプがあります。一般に非アルコール性脂肪肝の患者の方が多いのですが、“酒飲み”の方の場合は、前者である可能性が高いといってもいいでしょう」(浅部先生)

お金の貯金ならありがたいが、“脂肪の貯金”は迷惑な限りだ。だが、実際に脂肪肝と診断された左党のほとんどが危機感を抱いてないからか、正直「放置しておいても大丈夫なのでは?」と安易に考えてしまいがちである。だがそれは大きな間違いのようだ。

 「脂肪肝を甘くみてはいけません。脂肪肝を放置して、生活習慣を改めないと、炎症を起こしたり、線維化(*1)が進んで肝臓が硬くなるなどして、果ては肝硬変、肝がんになる可能性があります。肝臓は再生力が高いため、進行はゆっくりです。そのため、あるとき気付いたら、悪化していたということも少なくありません」(浅部先生)

アルコールが脂肪肝の直接の原因に

 どうやら、脂肪肝を甘くみてはいけないようだ。浅部先生によると「脂肪肝の原因は主にカロリー過多の食事や慢性的な運動不足のほか、アルコールそのものが原因になる」という。

 「アルコールは太らない」どころか、脂肪肝を誘発する直接の原因だったとは! 左党にとっては「えーっ!」と叫びたくなるような話である(筆者だって叫びたい)。

 「脂肪肝には大量飲酒が原因のアルコール性脂肪肝と、肥満、脂質異常、糖尿病が関与する非アルコール性脂肪肝の2タイプがあります。一般に非アルコール性脂肪肝の患者の方が多いのですが、“酒飲み”の方の場合は、前者である可能性が高いといってもいいでしょう」(浅部先生)
脂肪肝とは、肝臓の肝細胞に脂肪(特に中性脂肪)が蓄積した状態を指す。脂肪肝は大きく、「アルコール性」と「非アルコール性」に分けられる。さらに非アルコール性脂肪肝は「単純性脂肪肝」と「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」に分類される

 アルコールが脂肪肝の直接の原因になり得るということがわかったところで、次に知りたいのが脂肪肝へとつながる理由である。「エンプティカロリー」とまで言われることがあるアルコールと、脂肪肝の関わりはいかに?

 ちなみに、お酒が「エンプティカロリー」と言われる理由については、「「お酒で太る」はホント? ウソ?」の回で紹介したので、詳しくはそちらをご覧いただきたい。かいつまんで説明すると、アルコールは1g当たり7.1キロカロリーになるが、そのうち約70%は代謝で消費されるため、体重増加作用は少ないと考えられているのだ。

アルコール代謝中は、脂肪の燃焼が阻害される

 浅部先生は、大量のアルコール摂取が脂肪肝につながる理由は2つあると解説してくれた。

 「まず、アルコールは中性脂肪の材料になるんです。肝臓に運ばれたエタノールは、アルコール脱水素酵素(ADH1B)によって、まずアセトアルデヒドになり、次にアルデヒド脱水素酵素によって酢酸となります。その後アセチルCoAを経て、最終的にエネルギーを生むとともに脂肪酸を生成します。この脂肪酸こそが中性脂肪のもととなるのです」

 「もう1つの理由は、アルコールが肝臓で代謝されている間は脂肪の燃焼が阻害されるからです。普段、私たちのカラダは脂肪酸を「β(ベータ)酸化」によって代謝しています。β酸化とは脂肪酸を酸化して、最終的に細胞が必要とするエネルギー源を生成するプロセスのことです。しかし、アルコールが肝臓で代謝されている間はβ酸化が抑制されてしまうため、脂肪が燃焼されにくくなります。代謝されない過剰な脂肪酸は肝臓に蓄積されやすくなります。そのためお酒好きの方は脂肪肝になりやすいのです」(浅部先生)

 なるほど、「大量飲酒は脂肪肝に向かって一直線」というわけだ。実際、浅部先生によると、「1日の純アルコール摂取量が60g(日本酒にして3合)を越えている場合、アルコール性脂肪肝であることがほとんどです。アルコールの摂り過ぎが脂肪肝につながることは、教科書にも載るくらい、医療の分野では常識中の常識」だそうだ(しかし、私はそんな常識を知らなかった…)。

休肝日よりアルコールの総量が大事

 アルコール性脂肪肝の場合、原因は酒とわかっているのだから、手っ取り早く休肝日を取ればいいと思うのだが、浅部先生によると「休肝日よりもアルコールの総量を減らすことが重要」だという。

 「適量は純アルコールに換算して週に150g程度。休肝日を取ることも有効ではありますが、休肝日明けにドカ飲みしてしまっては何の意味もありません。脂肪肝を改善したいなら、休肝日よりも“量を守ること”に注力するといいでしょう」

 「お酒と一緒に食べるおつまみの選択も大事です。特に炭水化物(糖質)の摂り過ぎには注意が必要です。アルコールは肝臓からのブドウ糖放出を抑制するので、血糖値が上がりにくく、空腹感を覚えがち。そこで空腹感を満たすため、糖質となるお好み焼きや、焼きそばといった炭水化物をおつまみに選んでしまうと、ますます脂肪が蓄積されるという負のスパイラルに陥ってしまいます」(浅部先生)

 アルコール代謝によって脂肪が蓄積される上に、おつまみからの脂肪も加算されるとなれば“脂肪のダブルパンチ”である。飲んだ後の〆のラーメンの味は格別だが、脂肪肝にならないためにも、アルコールが生み出す空腹感にだまされてはいけないのだ。

普段の生活状態で健診を受ける

 「酒量を減らす」「おつまみに気をつける」――これらは幾度となく繰り返し言われてきたこと。まずはこれらを守るべく努力するとして、これ以外に気をつけるべきポイントは何かあるのだろうか。

 「定期的な健診を受けることです。ここで最も大事なのは、健診前だからといって、お酒をやめないこと。健診は普段の生活状態で受けなければ意味がありません。お酒をやめて、いい結果が出たとしても、それは一過性のもの。自身の肝臓の本当の実力を知るため、また今のペースでお酒を飲んで、どれだけ肝臓がダメージを受けているかを直視するためにも、健診の前も普段通りの生活を送ることをおすすめします」(浅部先生)

 実に耳が痛いアドバイスである。だが、健診はいい数値を出すことが目的ではない。今の自分のカラダの状態を正しく知ることが大切なのである。検査結果が悪かったら1カ月は酒をやめ、再検査する。それでも数値が悪いようなら、アルコールとは別の原因が考えられる。隠れている病気を見つけるためにも、「健診前だけ断酒する」という“その場しのぎ”はもうやめよう。

 浅部先生によると、検査結果でチェックすべきポイントは中性脂肪(TG)の他、肝臓の解毒作用に寄与するγ-GTP、肝細胞がどれだけ壊れたかの指針となるALT(GPT)の3つだという。ただし、脂肪肝の場合は、血液検査に加え、超音波検査CTスキャンと合わせて診断してもらうのが確実である。

 脂肪肝が増えていることもあってか、脂肪肝への効果をうたったサプリメントも多く登場しているが、「肝臓に効かせようとするサプリメントは、逆効果になる場合もある」という。特にβカロチンビタミンEなど脂溶性のものについては、カラダに蓄積する可能性があるので、素人判断で飲むのは避け、医師に相談してから飲むほうがいい。

 「脂肪肝に効く」という確実なエビデンスがあるのは、食事療法と運動療法の2つのみ。酒量を控え、適度な運動とバランスの良い食事こそが特効薬となる。
浅部伸一(あさべ しんいち)さん
自治医科大学附属さいたま医療センター消化器科講師
浅部伸一(あさべ しんいち)さん 1990年、東京大学医学部卒業後、東京大学附属病院、虎の門病院消化器科等に勤務。国立がんセンター研究所で主に肝炎ウイルス研究に従事し、自治医科大学勤務を経て、アメリカ・サンディエゴのスクリプス研究所に肝炎免疫研究のため留学。帰国後、2010年より自治医科大学附属さいたま医療センター消化器科に勤務する。専門は肝臓病学、ウイルス学。好きな飲料は、ワイン、日本酒、ビール。