パーキンソン病のリハビリ 介護、食事の注意点

パーキンソン病は、体の運動機能に障害が出る病気ですので、リハビリによって改善が見込めることがあり、病状を悪化させないための運動も有効です。介護や食事の時の注意点を含めて、医師監修記事、わかりやすく解説します。なお、文中に登場する「パーキンソン症候群」というのは、「パーキンソン病のような症状が出る病気の総称」であり、パーキンソン病とは、別の病気である点に、ご注意ください。

パーキンソン病患者のリハビリ 期待できる効果

パーキンソン病は進行すると運動障害が起こるため、日常生活において活動の制限や転倒の危険性があります。薬による治療に加えて、身体機能の維持や向上、および手足や背骨の関節の変形・拘縮(こうしゅく;関節などの動く範囲が制限されること)の予防や、改善のためのリハビリテーションが必要になります。また、リハビリは、薬の効き方が良い時間帯に行うことも大切です。以下のようなものがあります。リハビリは、「個々の患者さんの重症度や症状に応じて」、「患者さんごとに内容を選択・構成して実施すること」が重要とされていますので、医師やリハビリの専門家に内容を確かめるのもよいでしょう。

(1)理学療法(りがくりょうほう)
(a)運動療法→関節可動域(かんせつかどういき;動かせる範囲のこと)訓練、筋力訓練、歩行訓練、立ち直り訓練、バランス訓練、呼吸訓練などがあります。
(b)物理療法→ホットパックなどによる温熱療法が、関節可動域訓練の前に組織を柔(やわ)らかくしておくために行われます。

(2)作業療法
手の巧緻動作(こうちどうさ;指先の細かい動作)や認知動作(にんちどうさ;記憶力や注意力に関係する動作)、日常生活動作の訓練があります。
リハビリに期待できる効果

運動療法は次のようなものを改善するというデータがあります。

(1)身体機能
(2)健康関連する生活の質
(3)筋力
(4)バランス
(5)歩行速度

また、パーキンソン病には、刺激がない状態ではこなせない運動が、外部からの刺激により改善する「パラドックス(矛盾性)運動」が見られ、これを利用した治療法があります。特に、歩行に関して、視覚刺激や音刺激を利用した歩行訓練が効果的とされ、中でも聴覚によるリズム刺激が、パーキンソン病の患者さんの歩行障害に対して最も有効というデータが出ています。また、比較的早いテンポのリズム刺激を聞いてもらうだけの音楽療法(毎日最低1時間、計3から4週間、自宅で聞くだけ)では、歩行速度の向上があり、うつの改善がみられたということです。転倒に対する運動療法も、効果的とされています。
パーキンソン病のリハビリで体操をする?

健康増進、関節の拘縮(稼働範囲が狭くなること)や姿勢障害の予防が主体となっているヤール重症度分類の「ステージI」および「ステージII」の方、生活機能障害度でいうと日常生活でほとんど介助を必要としないⅠ度の患者さんを主な対象として、規則正しい生活リズムを保って、従来の生活を継続できるように、自宅でも毎日行える次のような「パーキンソン体操」が勧められています。

1.リラクゼーション;深呼吸や軽く手足を揺すって体の力を抜く。リラクゼーションの方法として、ヨガや太極拳も良いようです。
2.顔面の体操;A口を大きく開けたり閉めたりするB口の両端を横に引く(イーの音)。
3.頚部(くび)の体操;頭を前後、左右にゆっくり倒す。
4.上肢の体操;腕を上げ、指を握ったり開いたりする。
5.下肢の体操;Aイスまたはベッドの端に座り、足元を交互に上げ下げする。Bイスまたはベッドの端に座り、膝(ひざ)を交互に曲げ伸ばしする。
6.体幹(たいかん;胴体のこと)の体操[立位];A壁に向かって立ち、両手を壁について、胸を壁につけるつもりで背筋を伸ばす。B壁を背にして立ち、背中を壁につけるようにする。
7.体幹の体操[座位];Aイスまたはベッドの端に座り、両手を頭の後ろに組み、体をゆっくり前後に曲げ伸ばしする。Bイスまたはベッドの端に座り、両手を頭の後ろに組み、体をゆっくり左右に倒す。
8.体幹の体操[臥位(がい;寝ころんだ状態)];Aうつ伏せに寝て、両手でゆっくり状態を起こす。B仰向けに寝て、両足を曲げて、起きあがる。C片足を抱えて胸に引き寄せ、他方の足を床に押しつける。D仰向けに寝て、両足を曲げお尻を上げる。E仰向けに寝て、両足を曲げ左右にゆっくり倒して、腰を曲げる。F仰向けに寝て、自転車をこぐように両足をくるくる回す。
パーキンソン病患者の介護の注意点

パーキンソン病は慢性、進行性の病気であり、進行すると介護者なしに生活することは非常に難しくなります。在宅の場合、家族の負担が増し、介護上の問題で入退院を繰り返すケースも少なくないといわれます。在宅で介護する際の注意点をいくつか挙げておきます。

1.服薬について;
内服治療は、パーキンソン病に対して最も基本的な治療であり、きちんと服薬することは運動症状のコントロールにおいて最も大切です。薬の管理には、飲み間違いなどしないためにも、介護する方が関わることが必要となります。同じ時間帯に服用する錠剤を一包化してもらったり、日付と服薬時間を書き込むなどの工夫でと飲み忘れが減らせるでしょう。

2.転倒の問題;
介護が必要となる重症度の時期では、歩行ができる場合、転倒のリスクも高くなっていて要注意です。トイレ、入浴時の転倒が多いと言われていますので、可能な限り付き添う方がよいでしょう。転倒は、さらに寝たきりとなってしまう原因になっています。

3.幻視や妄想への対応;
幻視については本人に自覚があることも多く、幻視を訴える時は直ちに否定するのではなく、「自分には見えない」と返事するくらいが良いでしょう。幻視は長く持続せず、すぐに消えるのが特徴にもなっています。妄想に対しても強く否定せず、ふつう長続きしないので聞き流してもらうとよいでしょう。

4.認知症の問題;
認知症を伴っていて「夜間せん妄」などの症状がある場合、介護をされる家族の負担は非常に大きなものとなってしまいます。早めに主治医などに相談して、適切な治療や処置をとることが大切です。

5.介護負担の軽減;
在宅での訪問リハビリもありますが、通所介護施設のデイケアなどを利用することにより、介護する側の負担を軽くすることを考えるのも重要です。家族支援サービスである「レスパイトケア」などを検討してみるのもよいでしょう。
パーキンソン病患者の食事の注意点

パーキンソン病の患者さんが、注意しなければならない食事に関係する症状や問題として、「便秘」、「嚥下障害」、「転倒による骨折」、「L-ドーパとビタミンB6」、などがあります。

1.便秘;
長期にわたると腸閉塞(イレウス)を引き起こすこともあるので、食事による便秘対策は大切です。十分な食物繊維を含む食べ物と水分を毎日しっかり摂取することが重要になります。水分が足りないと、食物繊維の固まりが乾いて硬くなり、便秘を悪化させることになるので注意して下さい。

2.嚥下障害;
誤嚥性肺炎を引き起こさないためにも、「食物は少量ずつ口に入れ、十分に噛んで少しずつ飲み込む」、「あごを引いて、テーブルと平行に保つ」、「口の中に食べものを入れたままで話をしない」、を守りましょう。あごが上がると、食道が部分的に閉まり、気管が開いてしまい、誤嚥、 飲み込みの間違いによる危険性が増えます。

3.転倒による骨折;
骨折しにくい丈夫な骨をつくるために、「低栄養にならないように食事をしっかり摂る」、「十分なカルシウム、マグネシウムビタミンDおよびビタミンKの摂取」、に心がけて下さい。マグネシウムは固縮した筋肉を、柔らかくする効果があります。

4.L-ドーパとビタミンB6;
ビタミンB6はL-ドーパを分解代謝する酵素の働きを高めてしまうため、L-ドーパの作用を弱めます。L-ドーパを単独で飲んでいる患者さんでは注意が必要になります。L-ドーパの効きを良くする合剤の場合は、ビタミンB6を服用しても問題ないものもありますので、担当する医に相談するようにしましょう。

パーキンソン病のリハビリや食事の注意点などについてご紹介しました。「家族がパーキンソン病かもしれない」と不安に感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。(アスクドクターズ監修)